前節では、移住の成功例と失敗例を比較しました。では、成功した移住者たちは、具体的にどのような準備を「しておいて本当によかった」と感じているのでしょうか。
ここでは、先輩移住者たちからよく聞かれる「やっておいて助かった！」というリアルな準備の声を、具体的なエピソードとともにご紹介します。これから移住を考えるあなたにとって、必ず役立つヒントがあるはずです。
実例1【お金編】：最低半年分の生活費の確保が、心の「お守り」になった
「移住後、すぐに仕事が見つからず収入がゼロの期間が3ヶ月続きました。でも、事前に『半年は無収入でも暮らせる』だけの貯金を準備していたおかげで、焦らずに自分に合った仕事を探すことができました。もし貯金がギリギリだったら、条件の悪い仕事に飛びついて、結局後悔していたかもしれません」（30代・男性）
これは、多くの移住者が口を揃えて言う「最も重要な準備」の一つです。移住後は、車の購入や家の修繕、プロパンガスの保証金など、想定外の出費が重なるもの。「お金がない」という不安は、冷静な判断力を奪い、あらゆるストレスの根源になります。最低でも半年、できれば1年分の生活費を確保しておくことは、何ものにも代えがたい「心のセーフティネット」になるのです。
実例2【人間関係編】：お試し移住で「ご近所調査」ができた
「本格移住の前に、1ヶ月だけお試し移住制度を利用しました。その間に、朝夕の散歩を日課にして、会う人全員に挨拶して回ったんです。おかげで、本格的に引っ越してきた時には『ああ、あの時の！』と顔を覚えてもらえていて、驚くほどスムーズに地域に溶け込めました。ゴミ出しの細かいルールや、”あの道は冬凍るから危ない”といったリアルな情報を事前に聞けたのも大きかったです」（40代・女性）
移住後の最大の不安である「人間関係」。これを解消する最強の方法が「お試し移?」や「二拠点生活」です。事前に地域の人々と顔見知りになっておくだけで、移住後の孤独感や疎外感は劇的に和らぎます。地域の雰囲気や、自分たち家族とご近所さんとの相性を事前に「お試し」できることは、失敗のリスクを大きく減らしてくれます。
実例3【生活編】：妻のペーパードライバー講習が、家族の自由を救った
「都会では電車通勤で、妻は10年以上運転していませんでした。移住前にペーパードライバー講習を数回受けさせたのですが、これが大正解。私が車で仕事に行っている間も、妻が自由に買い物や子どもの送迎ができるので、家庭内のストレスが全く違います。もし妻が運転できなかったら、完全に家に閉じ込めてしまうところでした」（30代・男性）
「車は一人一台が基本」の田舎暮らし。運転に不慣れな場合は、必ず移住前に講習を受けるなどして練習しておきましょう。特に、都会の広い道とは違う、狭くて見通しの悪い農道や山道の運転には慣れが必要です。運転への不安を解消しておくことは、行動範囲を広げ、生活の質を格段に向上させます。
実例4【情報収集編】：移住相談窓口の担当者と“友達”になった
「候補地の自治体が運営する移住相談窓口には、何度も通いました。最初は制度の話ばかりでしたが、通ううちに担当者の方と個人的にも親しくなり、『〇〇地区は子育て世代が多いですよ』『あの空き家は、実は雨漏りが…』といった、ネットには載っていない本音の情報を教えてくれるように。最終的に家を決める際も、その担当者の方のアドバイスが決め手になりました」（40代・夫婦）
自治体の移住相談窓口は、単に制度を教えてくれるだけの場所ではありません。担当者は、その地域のことを知り尽くした「情報と人脈のハブ」です。一度きりの訪問で終わらせず、何度も足を運び、顔と名前を覚えてもらい、自分の熱意を伝えることで、より深く、リアルな情報を引き出すことができます。信頼できるキーパーソンとの出会いは、移住の成功を大きく後押ししてくれます。
実例5【心構え編】：虫や草むしりを「自然の一部」と覚悟していた
「SNSで見るキラキラした田舎暮らしだけでなく、虫の多さや草むしりの大変さといった”田舎のリアル”も、事前にブログや動画で散々調べて覚悟していました。だから、実際に巨大なムカデが出た時も『出たな！』と笑い飛ばせましたし、終わらない草むしりも『これも週末の健康的なエクササイズだ』と楽しめています。もし憧れだけで来ていたら、初日で心が折れていたと思います」（30代・女性）
理想と現実のギャップは、後悔の最大の原因です。特に、自然の厳しさ（虫、獣、天候、雑草など）は、多くの移住者が直面する壁。キラキラした情報だけでなく、あえてネガティブな情報にも目を向け、「そういうものなんだ」と事前にインプットしておく。この「心のワクチン」を打っておくことで、いざ現実に直面した時のショックを和らげ、むしろそれを楽しむくらいの心の余裕が生まれるのです。
これらの実例に共通しているのは、**「自分たちの足と時間を使い、人との繋がりを大切にしながら、リアルな情報を集めていた」**ということです。
インターネットの情報だけで判断するのではなく、現地に足を運び、人と話し、実際に体験する。こうした地道で丁寧な準備こそが、「こんなはずじゃなかった」という後悔をなくし、あなたの田舎暮らしを成功へと導く、最も確実な道筋なのです。
