都会では味わえない、季節の移ろい

a field with a fence and trees in the background 日々の暮らし

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春の訪れは、畑の土の匂いでわかる。65歳の私と妻がこの山陰の町に移住して10年、季節の移ろいを肌で感じる暮らしが、日々の喜びになっている。都会にいた頃は、カレンダーと天気予報で季節を知っていたが、今は風の温度、空の色、鳥の声が教えてくれる。

春:芽吹きの歓び

雪が溶け、畑の土が柔らかくなると、私たちの手も自然と動き出す。ジャガイモの種を植え、春野菜の苗を並べる。朝露に濡れた畑にしゃがみこみ、土の感触を確かめる時間は、何にも代えがたい。

妻は山菜を摘みに出かける。フキノトウ、タラの芽、ワラビ??どれも、春の息吹を感じさせてくれる食材だ。料理教室では、これらを使った季節のメニューが好評で、参加者との会話も弾む。

夏:緑の力強さ

標高の高いこの町では、夏でも涼しい風が吹く。畑は緑に覆われ、トマト、ナス、キュウリが次々と実をつける。朝早くから収穫し、汗をかきながら土と向き合う。都会では冷房の効いた部屋で過ごしていたが、ここでは太陽の下で季節を味わう。

夕方には、近くの温泉に浸かり、疲れを癒す。湯船から見える夕焼けが、夏の終わりを告げるように赤く染まる。そんな風景に、心が静かに満たされる。

秋:実りと静けさ

秋は、収穫の季節。サツマイモ、里芋、大根??畑から掘り出すたびに、自然の恵みに感謝する。妻はジャム作りに忙しくなる。柿やリンゴを煮詰め、瓶に詰める。道の駅に並べると、「今年も楽しみにしてました」と声をかけられることもある。

山々は紅葉に染まり、朝晩の空気が冷たくなる。薪ストーブの準備を始める頃、季節の移ろいが次の章へと進むのを感じる。

冬:静けさとぬくもり

雪が降ると、町は静寂に包まれる。音が吸い込まれたような世界で、薪ストーブの火がパチパチと鳴る音だけが響く。朝、窓を開けると、白銀の景色が広がり、空気が澄み渡っている。

風呂は薪ボイラーで沸かすが、寒い日は温泉へ。雪見風呂に浸かりながら、妻と「今年もよく頑張ったね」と語り合う。都会では味わえなかった、静けさとぬくもりが、ここにはある。

季節が暮らしを形づくる

都会では、季節は「イベント」だった。春は花見、夏は花火、秋は紅葉狩り、冬はイルミネーション。どれも一瞬の楽しみで、暮らしの中に深く根付いてはいなかった。

田舎では、季節が暮らしそのものになる。畑の作業、薪の準備、料理の素材、風呂の温度??すべてが季節と連動している。だからこそ、季節の移ろいが、心のリズムにも影響を与える。

自然と共に生きるということ

季節の変化は、時に厳しく、時に優しい。台風で畑が荒れたこともあれば、霜で野菜が枯れたこともある。それでも、自然と共に生きることで、私たちは「受け入れる力」を育ててきた。

便利さを手放した代わりに、私たちは「季節の手ざわり」を手に入れた。風の匂い、土の温度、空の色–それらが、暮らしを豊かにしてくれる。


季節は、暮らしのリズムそのもの

田舎暮らしでは、季節の移ろいが日々の営みに深く関わる。都会では感じにくかった自然のリズムが、心と体を整えてくれる。季節と共に生きることが、何よりの贅沢なのです。

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