雪が50cm積もる冬の暮らし。雪かきのコツと楽しみ方

日々の暮らし

はじめに:憧れの銀世界と、容赦ない現実

こんにちは。山陰の山村で、薪ストーブのぬくもりに幸せを感じる冬を過ごしております、タ-カシです。

都会で暮らしていた頃、冬になるときまって、テレビのニュースで映し出される豪雪地帯の-映像を眺めては、妻と二人、「綺麗だねえ」「一度くらい、あんな雪景色の中で静かに過ご-してみたいものだね」などと、のんきな会話を交わしていました。私たちにとって「雪」と-は、非日常の美しい風景であり、どこかロマンチックな憧れの対象だったのです。

しかし、この標高の高い村に移住し、初めての冬を迎えた時、その甘い幻想は、ずっしり-とした雪の重みと共に、木っ端微塵に砕け散りました。私たちの村では、冬になると多い時-には一晩で50cmもの雪が積もります。それはもはや「景色」などという悠長なものではな-く、日々の暮らしに直接のしかかってくる、避けては通れない「現実」であり、「仕事」そ-のものでした。

今回は、そんな雪国での五年間の暮らしを通して、私たちが体で覚えた「雪かき」という-名の冬の格闘技のコツと、そしてその厳しい現実の中に見出した、雪があるからこそのささ-やかな楽しみ方について、お話ししたいと思います。

【格闘編】雪かきはスポーツだ!六十五歳の雪かき戦略

冬の間、私の朝はカーテンを開け、窓の外に広がる白銀の世界を確認することから始まりま-す。そして、積雪量を見ては「さて、今日の試合時間は一時間コースか、それとも二時間コ-ースか」と、己に気合を入れるのです。そう、雪かきは六十五歳の私にとって、まぎれも-なく真剣勝負のスポーツなのです。

その1:道具選びが勝敗を分ける。三種の神器を使いこなせ

移住一年目、私はホームセンターで買った一本のプラスチック製スコップだけで、この強敵-に挑もうとしました。結果は惨敗。すぐに道具の重要性を思い知らされました。今、我が家-の玄関先には、雪質や量に応じて使い分ける「三種の神器」が鎮座しています。

  • プラスチック製スノープッシャー:いわゆる「雪押し」。新雪や軽い雪を「押して」運ぶための道具です。軽くて扱いやすいので、降り始めの先制攻撃に威力を発揮します。
  • アルミ製スコップ:重みがあり、刃先が金属で補強されているため、固く締まった雪や、少し凍りついた雪を「砕いて」すくうのに向いています。
  • スノーダンプ:ブルドーザーの排土板のような形をした、プラスチック製の大きなソリのような道具です。大量の雪を一度にすくい、滑らせて運ぶことができます。「押す」「すくう」に加えて「運ぶ」という発想の転換が、作業効率を劇的に改善してくれました。玄関先から雪捨て場まで距離がある我が家では、今やこれが最強のエースです。

その2:タイミングが命。「後で」は禁物、先手必勝あるのみ

大雪が降った朝、絶望的な気分で分厚い雪の層を前に立ち尽くす。これは、雪国初心者が-陥りがちな最も辛い状況です。雪は、積もれば積もるほど自らの重みで固く締まり、時間-が経てば凍りついて、その攻略難易度は跳ね上がります。

そこで私たちが学んだ鉄則は、「雪かきは、降り始めの軽い雪のうちに、こまめに行う」ということです。夜中にしんしんと降り続いているなと感じたら、寝る前にも一度、30分-だけでも玄関周りの雪を片付けておく。朝、少し積もっていたら、本格的に積もる前にもう-一度。このこまめな先制攻撃が、結果的に一日の総労働時間を短縮し、体への負担を軽減し-てくれるのです。

その3:腰は資本。体に優しい「雪かきの作法」

移住一年目の冬、私は張り切りすぎて見事に腰を痛め、数日間寝込むという情けない経験を-しました。雪かきは、正しいフォームで行わないと、体を痛める危険なスポーツでもあるの-です。以来、私は以下の「作法」を固く守っています。

  • 準備運動は必ず行う。
  • 膝を曲げ、腰を落として、腕の力だけでなく体全体の力を使う。
  • 一度にたくさんの雪を運ぼうと欲張らない。
  • 雪を投げるときは、腰をひねらず、体の向きごと変える。
  • 終わった後は、必ずストレッチでクールダウンする。

当たり前のことばかりですが、この基本を守ることが、長い冬を乗り切るための何よりの秘-訣です。

【楽しみ方編】雪は敵じゃない。冬ならではの恵みと喜び

と、ここまで雪との格闘の話ばかりしてきましたが、もちろん、雪は私たちに試練ばかりを-与えるわけではありません。その厳しさの中には、都会では決して味わうことのできない、-静かで豊かな喜びも隠されています。

その1:静寂に包まれる、特別な時間

雪には、音を吸収する効果があります。大雪が降った朝、世界はしん、と静まり返り、-車の音も、人々の喧騒も、すべてが分厚い雪の布団に吸い込まれてしまいます。そんな静寂-の中、家の中で薪ストーブの炎がパチパチとはぜる音だけを聞きながら、熱いコーヒーをす-する。この時間は、何物にも代えがたい、冬だけの贅沢です。

その2:天然の冷蔵庫「ミニかまくら」

雪かきで集めた雪は、ただの邪魔者ではありません。家の片隅にこんもりと積み上げて固め-、小さな穴を掘れば、それは立派な「ミニかまくら」となり、天然の冷蔵庫に早変わりします。大根や白菜といった冬野菜を新聞紙にくるんで入れておけば、驚くほど-みずみずしさが長持ちします。たまに遊びに来る孫たちは、このかまくらからジュースを取-り出すのが大好きで、大喜びしてくれます。

その3:雪見風呂と温泉のありがたみ

雪かきで冷え切った体と、かいた汗を流すのに、温泉ほど素晴らしいものはありません。湯-船に体を沈め、窓の外でしんしんと降り続く雪を眺める「雪見風呂」は、この土地に住む者-だけの特権です。厳しい労働の後だからこそ、その温かさが骨の髄まで染み渡るのです。

まとめ:雪と共存し、冬を深く味わう暮らし

雪国の冬は、確かに甘くはありません。それは、絶え間ない労働と、自然の厳しさとの真-摯な向き合いを私たちに求めます。しかし、その「影」の部分があるからこそ、私たちは薪-ストーブの炎のありがたみを、一杯のコーヒーの温かさを、そして厳しい冬の先にある春の-息吹を、誰よりも深く感じることができるのです。

雪は敵ではない。それは、私たちの暮らしの一部であり、人生に深く豊かな陰影を与えてく-れる、大切な隣人。五年という月日を経て、私たちはようやく、そう思えるようになりまし-た。

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