はじめに:田舎暮らしのリアルな「お金」の話
こんにちは。山陰の山村で、妻と二人、年金暮らしを送っておりますタカシです。ブログ「田舎移住の光と影」、今回は多くの方が気になっていらっしゃるであろう、少し生々しいテーマ、「お金」についてお話ししたいと思います。
「田舎でのんびり暮らしたいけれど、年金だけで本当に生活できるのだろうか」「移住してからの収入はどうしているの?」
移住を検討されている方、特に私たちと同じシニア世代の方々にとって、これは避けては通れない、最も現実的で切実な問題だと思います。私たち夫婦も、移住前には何度も家計のシミュレーションを重ね、頭を悩ませたものです。
結論から申し上げますと、私たちの暮らしは、二人分の年金という「土台」と、妻が地域の方々との交流の中から始めたささやかな「+α」の稼ぎによって成り立っています。今回は、その「+α」の部分、つまり妻が営む料理教室とジャムなどの加工品販売について、少し恥ずかしいですが、その収入も含めて具体的にお話ししたいと思います。私たちの暮らしのリアルな一面が、皆様の計画の参考になれば幸いです。
我が家の家計の土台:二人分の国民年金と厚生年金
贅沢はできないが、心穏やかに暮らすための基盤
まず、私たちの生活の根幹を支えているのは、夫婦二人分の年金です。私は長年勤めた会社を定年まで勤め上げましたので厚生年金、妻は国民年金を受給しています。具体的な金額を申し上げるのは差し控えますが、一般的なサラリーマン家庭が受け取る平均的な額を想像していただければ、そう大きくは外れないかと思います。
この年金収入だけで、都会で以前と同じような暮らしを続けられたかと問われれば、答えは「否」でしょう。家賃や物価、何かとつきまとう交際費を考えると、かなり切り詰めた生活を強いられたはずです。
しかし、幸いなことに、この村での生活コストは都会に比べて格段に抑えられます。住んでいる古民家は賃貸ですが家賃は安く、畑で採れる野菜のおかげで食費もずいぶんと助かっています。そのため、年金だけでも十分に「食べていく」ことは可能です。ただ、人間というのは不思議なもので、最低限の生活が保証されると、もう少し心の「ゆとり」が欲しくなるものです。孫が来た時にお小遣いをあげたい、たまには夫婦で少し足を延ばして温泉旅行にでも行きたい、新しい畑の道具が欲しい…。そんなささやかな願いを叶えるために、妻の「+α」の稼ぎが、我が家の家計にとって、そして私たちの心の潤いにとって、かけがえのない存在となっているのです。
妻の「+α」その1:料理教室という名の、地域の井戸端会議
きっかけは、畑で採れすぎた夏野菜のおすそ分け
移住して最初の夏、私たちの小さな畑は、素人の拙い世話にもかかわらず、驚くほどの恵みをもたらしてくれました。特にきゅうりとトマトは、二人では到底食べきれない量が毎日採れる始末。そこで、ご近所さんにおすそ分けして回ったのが、すべての始まりでした。
料理上手な妻が、採れたて野菜を使った常備菜や保存食を一緒に添えてお渡ししたところ、これが大変な評判を呼びました。「この漬物、どうやって作るの?」「うちの畑の野菜でも作れるかしら?」。そんな声があちこちから聞こえてくるようになり、ある日、近所の奥さんから「お金を払うから、ぜひ私たちに料理を教えてほしい」と頼まれたのです。
気になる収入は、月に一万円ほどの「お楽しみ費」
「料理教室」というと聞こえは立派ですが、実態は、我が家の台所に二、三人が集まって、お茶を飲みながらワイワイとおしゃべりを楽しむ「井戸端会議」のようなものです。月に二回ほど、参加したい人が声を掛け合って集まります。参加費は、材料費込みで一人二千円。季節の野菜を使った手料理と、妻特製のジャムを添えたお茶菓子がつくのがささやかな自慢です。
さて、肝心の収入ですが、毎回三人の方が参加してくださったとして、計算はこうなります。
**一人2,000円 × 3人 × 月2回 = 12,000円**
ここから材料費などを引くと、手元に残るのは、だいたい月に**一万円**ほど。大金ではありません。しかし、この一万円が、私たちの暮らしに彩りを与えてくれる「お楽しみ費」となるのです。二人で映画を見に行ったり、少し良いお肉を買ってきて薪ストーブの前で夕食を楽しんだり。何より、妻が自分の得意なことで地域の人々と繋がり、喜んでもらえているという事実が、お金には代えがたい価値を持っています。
妻の「+α」その2:畑の恵みを瓶に詰めて。ジャムと加工品の販売
「売ってほしい」の声に背中を押されて
もう一つの収入の柱が、ジャムなどの加工品販売です。これもまた、畑の恵みから生まれた商いです。春にはイチゴやルバーブ、夏にはブルーベリー、秋には栗やカボチャ。旬の時期には食べきれないほどの収穫があります。それらを無駄にしたくないという思いから、妻はせっせとジャムやピクルス、干し野菜などを作るようになりました。
当初は自家用と、料理教室に来てくれた方へのお土産だったのですが、その美味しさが口コミで広まり、「ぜひ売ってほしい」という声をいただくようになったのです。思い切って村の小さな農産物直売所に相談したところ、幸いにも「ぜひ置いてください」と快く引き受けていただけることになりました。
季節で変動。平均すれば月に一万五千円ほどの副収入
こちらの収入は、季節によって大きく変動します。やはり、ジャムの材料となる果物が豊富に採れる初夏から秋にかけてが書き入れ時です。多い月には、売上が三万円を超えることもありますが、逆に品数が少なくなる冬場は、一万円に満たないこともあります。
一年間を平均すると、だいたい月に**一万五千円**くらい、というのが正直なところです。もちろん、ここから瓶代や砂糖代、直売所への手数料などが引かれますので、すべてが利益になるわけではありません。
しかし、自分たちの畑で丹精込めて育てた作物が、姿を変えて誰かの食卓に届き、喜んでもらえる。そして、それがささやかでも収入に繋がる。この一連の流れは、定年後の私たちにとって、大きな生きがいと張り合いを与えてくれました。
まとめ:「+α」がもたらす、お金以上の豊かさ
妻の料理教室と加工品販売。この二つを合わせると、我が家の「+α」の収入は、平均して月に**二万五千円**ほどになります。この金額を、多いと見るか、少ないと見るかは、人それぞれでしょう。
しかし、年金暮らしの私たちにとって、この二万五千円は、生活に大きな「ゆとり」と「選択肢」を与えてくれる、非常に大きな存在です。そして、それ以上に大切なのは、この「+α」が、お金には換算できない豊かさをもたらしてくれているという事実です。
妻にとっては、社会との繋がりであり、自己表現の場であり、何よりの生きがいとなっています。彼女が楽しそうにジャムの瓶を煮沸している姿を見るのは、私にとっても大きな喜びです。
田舎で大きなビジネスを興すのは、容易なことではないかもしれません。しかし、自分の好きなこと、得意なことを活かして、身の丈に合った「+α」を生み出すことは、決して不可能ではありません。そして、その小さな稼ぎが、暮らしを、そして人生を、想像以上に豊かにしてくれる。私たちは、この村での生活を通して、そのことを実感しています。