はじめに:「特別なご褒美」から「普段着の癒し」へ
こんにちは。山陰の山村で、妻と二人で暮らしておりますタカシです。
都会で暮らしていた頃、私たち夫婦にとって「温泉」とは、年に一度か二度、少し遠出して楽しむ「特別なイベント」でした。箱根や伊豆の温泉旅館に泊まり、豪華な食事と共に湯に浸かる。それは確かに素晴らしい時間でしたが、あくまで非日常の贅沢であり、普段の生活とは切り離されたものでした。
ところが、この村に移住してきてから、私たちと温泉との関係は一変しました。車を少し走らせれば、そこには良質な湯がこんこんと湧き出る温泉がある。それは、観光客でごった返す場所ではなく、地元の人々が畑仕事の汗を流しに集う、普段着の公衆浴場です。私たちにとって温泉は、「特別なご褒
美」から、日々の疲れを癒し、明日への活力を与えてくれる「日常の存在」へと変わったのです。
我が家の風呂は薪ボイラーで、それはそれで大きな楽しみなのですが、毎日薪を準備して火をおこすのは、正直なところ骨が折れる時もあります。そんな時、気軽に立ち寄れる温泉の存在は、私たちの暮らしに計り知れないほどの恩恵と安らぎを与えてくれています。
今回は、そんな「温泉が日常にある暮らし」のリアルな一面として、気になる我が家の「温泉代事情」について、具体的な数字を交えながらお話ししたいと思います。
我が家の「ホーム温泉」と、薪ボイラーとの絶妙な関係
車で15分、そこは源泉かけ流しの楽園
私たちが「ホーム」と呼び、親しみを込めて通っているのは、家から車で15分ほどの距離にある、こぢんまりとした村営の温泉施設です。派手な設備は何一つありませんが、湯船に注がれるのは正真正銘の源泉かけ流し。少しぬるめのお湯にゆっくりと体を沈めると、体の芯からじんわりと温まり、腰や肩の痛みが和らいでいくのが分かります。
脱衣所や休憩室では、いつも顔なじみの地元の方々が世間話に花を咲かせており、そこはさながら「村の社交場」といった趣です。私たち移住者にとっても、ご近所さんと顔を合わせ、畑の作物の出来栄えや天気の話を交わす、貴重なコミュニケーションの場となっています。
「今日はどっちにする?」夫婦の合言葉
我が家では、夕方になると「さて、今日のお風呂はどうする?」というのが、夫婦の合言葉のようになっています。薪の準備ができていて、じっくりと家で過ごしたい日は、薪ボイラーに火を入れます。一方で、畑仕事でくたくたになった日や、少し気分転換をしたい日、そして純粋にあの良いお湯に浸かりたい日は、迷わず温泉へと車を走らせます。体感としては、週に三回から四回は温泉のお世話になっているでしょうか。この「選択肢がある」という事実が、私たちの暮らしに大きなゆとりをもたらしてくれています。
【家計簿公開】気になる我が家の月々の温泉代は?
さて、本題です。これだけ頻繁に通っていると、一体いくらお金がかかっているのか。気になる方も多いでしょう。我が家のリアルな温泉代を、ここに公開します。
その1:一回あたりの入浴料と、回数券という強い味方
まず、私たちのホーム温泉の一回の入浴料は、大人一人500円です。これだけでも、都会のスーパー銭湯が千円を超えることを考えれば、十分に安いと言えるでしょう。しかし、私たちのような常連客には、さらに強力な味方が存在します。それが「回数券」です。
この施設では、5,000円で11枚綴りの回数券を販売しています。これを購入すると、一回あたりの入浴料は、5,000円 ÷ 11枚 ≒ 約455円。一杯のコーヒーほどの値段で、極上の癒しが手に入る計算になります。
その2:夫婦二人、一か月の温泉代を計算してみる
では、この回数券をフル活用した場合、我が家の月々の温泉代はいくらになるのでしょうか。先ほど、週に平均して3回は通っているとお話ししましたので、それで計算してみましょう。
- 夫婦二人分の週の利用回数: 2人 × 3回/週 = 6回
- 一か月の利用回数(4週間として): 6回 × 4週 = 24回
- 一か月の温泉代合計: 約455円/回 × 24回 = 10,920円
つまり、我が家の月々の温泉代は、およそ一万円強、ということになります。この金額をどう捉えるかは、人それぞれだと思います。しかし、私たちにとって、この一万円は単なる出費ではなく、暮らしを豊かにするための、極めてコストパフォーマンスの高い「投資」なのです。
温泉代は「消費」ではない。「健康」と「地域交流」への投資である
薪代と手間の節約、そして何より「健康」への投資
月一万円という金額は、薪ボイラーを毎日焚くための薪代や、火をおこす手間と時間を考えれば、決して高いものではありません。むしろ、時間と労力を「買っている」とさえ言えます。
そして何より、この投資は私たちの「健康」に直結しています。六十五歳を過ぎた体には、あちこちにガタがきます。しかし、温泉にゆっくり浸かることで、血行が良くなり、筋肉の疲れや関節の痛みが和らぎます。おかげさまで、私たちは大きな病気をすることもなく、湿布やマッサージのお世話になることもほとんどありません。これは、将来的な医療費の節約に繋がっていると、私たちは本気で考えています。
移住者にとって最高の「コミュニケーションツール」
もう一つ、お金には換算できない大きな価値が「地域との繋がり」です。移住者にとって、地域コミュニティに溶け込むことは、最も大きな課題の一つです。しかし、この温泉では、誰もが皆「裸の付き合い」。肩書きも経歴も関係ありません。湯船に浸かれば、自然と会話が生まれます。「あんたんとこの畑、今年は大根の出来が良いじゃないか」「今度、孫が来るんだよ」。そんな何気ない会話の積み重ねが、私たちを「よそ者」から「村の一員」へと、少しずつ変えてくれたのです。月一万円は、この貴重なコミュニティへの参加費だと考えれば、あまりにも安いとさえ感じます。
まとめ:月一万円で手に入る、極上の田舎暮らし
私たちの暮らしにとって、温泉はもはやインフラの一部です。月々約一万円の出費は、家計の中では決して小さな額ではありませんが、それによって得られる健康、安らぎ、そして地域との温かい繋がりを考えれば、これほど価値のあるお金の使い方はない、と断言できます。
それは、私たちの年金暮らしを支え、日々の生活に彩りを与えてくれる、最高の「心の栄養剤」なのです。湯煙の向こうに見える、満ち足りた笑顔。それこそが、田舎暮らしの「光」そのものなのだと、私たちは日々実感しています。