田舎暮らしの家計簿。都会より安くなったもの、逆にお金がかかるもの

生活費

はじめに:暮らしの価値観を映し出す「鏡」としてのお金

こんにちは。ブログ「田舎移住の光と影」のタカシです。

前回は、私たち夫婦の年金と、妻のささやかな商いからなる収入面についてお話しさせていただきました。今回はその対となる「支出」に焦点を当て、移住後の我が家の家計簿を具体的にお見せしたいと思います。

「田舎暮らしは、都会に比べて生活費が安い」

これは、移住を考える多くの人が抱くイメージではないでしょうか。私たちもまた、漠然とそう信じていました。そして、五年という月日をこの村で過ごした今、そのイメージは半分は正しく、そしてもう半分は少し違う、ということを実感しています。

田舎暮らしは、確かにお金のかからない側面(光)があります。しかしその一方で、都会では考えもしなかったような、新たなお金の使い道(影)が生まれるのもまた事実なのです。今回は、私たちの実体験に基づき、「都会より安くなったもの」と「逆にお金がかかるようになったもの」を、率直に比較してみたいと思います。

【光】都会より安くなったもの

その1:住居費(家賃)

まず、最も大きな変化があったのが「住居費」です。これは、私たちの家計において最大の節約項目となりました。都会にいた頃は、決して広くはないマンションに、決して安くはない家賃を払い続けていました。それに加えて、管理費や駐車場代も毎月のしかかってきます。

一方、現在私たちが住んでいるこの古民家は、空き家バンクで見つけた賃貸物件ですが、その家賃は、以前のマンションの三分の一以下です。もちろん、管理費という概念もありません。この固定費の大幅な削減が、年金暮らしの私たちにとって、どれほどの精神的な安らぎをもたらしてくれたことか、計り知れません。

その2:食費

次に大きく変わったのが「食費」です。特に、野菜にかかるお金は劇的に減りました。我が家の小さな畑は、春から秋にかけて、季節の恵みを次々ともたらしてくれます。夏にはトマトやきゅうり、ナスが食べきれないほど採れ、秋には芋や大根が食卓を賑わせます。旬の時期に採れた野菜は、妻が漬物や干し野菜に加工してくれるので、冬の間もその恩恵にあずかることができます。

また、ご近所付き合いの中から生まれる「物々交換」も食費を助けてくれます。「うちで採れたから」と大根をいただけば、「うちの畑の白菜と交換しましょう」といった具合です。お金を介さない、この温かいやり取りこそ、田舎暮らしの醍醐味かもしれません。

その3:光熱費(冷房費)と交際費

意外なところでは、「夏の電気代」がほぼゼロになりました。標高が高いこの村では、真夏でも涼しい風が吹き抜けるため、エアコンは必要ありません。都会で暮らしていた頃、熱帯夜に一晩中クーラーをつけ、翌月の電気代の請求書に頭を悩ませていたのが嘘のようです。

また、外食や飲み会といった「交際費」も自然と減りました。友人との付き合いがなくなったわけではありません。むしろ、友人たちが都会の喧騒を離れて我が家に遊びに来てくれる機会が増えました。畑で採れた野菜でご馳走を振る舞い、薪ストーブを囲んで語り合う。お金をかけずとも、以前よりずっと豊かで濃密な時間を過ごせています。

【影】逆にお金がかかるようになったもの

その1:交通費(自動車関連費)

さて、ここからは「影」の部分です。田舎暮らしで、最もお金がかかるようになったと断言できるのが「交通費」、すなわち自動車関連の費用です。

都会では、電車やバスといった公共交通機関が発達していたため、車がなくても生活に不自由はありませんでした。しかし、この村では車は「足」そのものです。食料品の買い出し、病院への通院、少し離れた温泉へ行くにも、すべて車がなければ始まりません。我が家では、普通の乗用車と、畑仕事で使う軽トラックの二台を所有しており、その維持費は家計に重くのしかかります。

ガソリン代はもちろんのこと、自動車税、車検代、保険料、そして冬には必須となるスタッドレスタイヤへの交換費用。これらを合計すると、年間の出費はかなりの額になります。これは、田舎暮らしをする上で避けては通れない、最大のコストと言えるでしょう。

その2:光熱費(暖房費)

夏は涼しい天国ですが、その裏返しで、冬の寒さは想像以上に厳しく、当然「暖房費」はかさみます。我が家の暖房の主役は薪ストーブですが、家を暖めるのに十分な量の薪をすべて自分たちで確保するのは、六十五歳の体には限界があります。そのため、ある程度の量の薪は、地元の業者さんから購入せざるを得ません。

また、風呂は薪ボイラーですが、これも同様に薪代がかかります。薪ストーブだけでは暖めきれない部屋のために、補助的に石油ファンヒーターも使いますから、その灯油代も必要です。都会のマンションで、冬でも薄着で過ごせていた頃のガス代や電気代と比べると、冬場の燃料費は明らかに高くなっています。

その3:交際費(地域とのお付き合い)

「交際費は減ったのでは?」と思われるかもしれません。友人との外食費は減りましたが、その代わりに「地域とのお付き合い」に関する出費が新たに生まれました。

例えば、自治会の会費や、地域のお祭りへの寄付。また、何かとお世話になるご近所さんへの、お中元やお歳暮といった季節のご挨拶も欠かせません。冠婚葬祭に関するお付き合いも、都会より濃密です。これらは、地域の一員として円滑な人間関係を築いていくための、いわば「見えないコスト」です。一つ一つは少額でも、年間で考えると決して無視できない金額になります。

まとめ:支出の変化は、生き方の変化

いかがでしたでしょうか。私たちの家計簿を比較すると、住居費や食費は大幅に減りましたが、その分、自動車関連費や冬の燃料費が増えました。トータルで見れば、月々の支出は都会にいた頃よりも数万円は安くなっている、というのが実感です。

しかし、それ以上に重要なのは、お金の「使い道」が大きく変わったということです。都会では「便利さ」や「快適さ」のためにお金を使っていましたが、ここでは「生きるために不可欠なもの」や「人との繋がり」のためにお金を使っている。そんな実感があります。

田舎暮らしの家計簿は、単なる数字の比較ではありません。それは、自分たちが何を大切にし、どのような暮らしを築いていきたいのかという、生き方の価値観そのものを映し出す「鏡」なのかもしれません。

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